夫が海外で結婚式を挙げる——その噂を耳にした時、私は驚かなかった。十年近く続いた裏切りの延長線に、いずれそういう日が来ると分かっていたからだ。問題は、夫が「離婚は済んだ」と周囲に言い触らし、私を存在しないものとして扱っていたこと。そして、義家族がそれを信じ、あるいは信じたふりをして、十二人揃って出国し参列したことだった。
「向こうで式を挙げれば、もう既成事実だ。お前は黙って消えろ」
夫は最後にそう言った。愛人は笑い、義母は「家の恥さらしは置いていけ」と吐き捨てた。義父も、義兄弟も、誰一人として私の言葉を聞こうとしない。まるで私が、彼らの物語に邪魔な小道具でしかないかのように。
私は泣かなかった。怒鳴らなかった。代わりに、淡々と手続きを進めた。戸籍の状況、離婚届の有無、夫が周囲に流している虚偽。弁護士に相談し、必要な証拠を揃え、役所への照会も済ませた。夫が勝手に進めたことは、国内でも国外でも、法的に無傷ではいられない。私はその現実を、静かに整えていった。
海外の結婚式は派手だったらしい。白い砂浜、青い海、豪華な装飾、義家族十二人の集合写真。
SNSには「最高の家族旅行」「新しい門出」といった言葉が並んだ。夫は勝ち誇っていた。自分の人生が完璧に上書きされたと信じていた。
だが、帰国の日が来る。
空港の入国審査場は、旅行者の疲れと安堵が入り混じる独特の空気が漂う。義家族は並んで進み、夫は愛人の肩を抱き、周囲に聞こえるように言ったという。
「これで全部終わりだ。あいつも諦めるだろ」
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