大雪が降り続く夜だった。窓の外は白い幕のように視界が途切れ、風の音が家の壁を叩く。そんな中、玄関のチャイムが一度だけ短く鳴った。宅配でも、近所の来客でもない。妙な胸騒ぎがして、私はスリッパのまま廊下を駆けた。
ドアを開けた瞬間、冷気が室内へなだれ込む。玄関先に立っていたのは、私の姪、八歳の美咲だった。肩まで雪をかぶり、睫毛は凍りついたように白い。
背中には小さな赤ちゃんをおんぶしている。赤ちゃんの頬は真っ赤で、息が弱々しく見えた。
「……おばさん」
美咲は震える声で言った。唇は紫に近い色になり、指先は感覚がないのか、ぎこちなく袖を握りしめていた。私は一瞬、言葉を失った。こんな夜に、なぜ。どうして一人で。頭の中で問いが渦巻く。
美咲は足をそろえ、深く頭を下げた。まるで大人のように、必死に礼儀を守ろうとしている。その姿が胸に刺さった。
「……3000円、貸して下さい……」
その声は小さく、しかし切迫していた。私はすぐに家へ入れようとしたが、居間から夫の声が飛んだ。
「誰だ?こんな時間に」
夫は不機嫌そうに現れ、玄関に立つ美咲を見た瞬間、眉をつり上げた。
赤ちゃんを背負っていることにも気づいたのか、顔をしかめ、信じられないものを見るような目で言い放った。
「はぁ?貸すわけないだろ!」
その言葉は、冷気よりも鋭く刺さった。美咲の肩がびくりと跳ねる。赤ちゃんが小さく泣きかけたが、すぐに声が途切れた。寒さで力が出ないのかもしれない。私は反射的に美咲を家に引き込もうとしたが、夫は腕を伸ばしてそれを遮った。
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