夫は昔から、何でも写真に残す人だった。
食べた料理、買った物、駐車した場所。忘れないようにと、すぐスマホで撮影する癖があった。
まさか、その癖が自分の不倫を証明するとは思っていなかったのだろう。
ある日、家族で共有しているクラウドアルバムを整理していると、見覚えのないレシートの写真が表示された。
撮影日時は3月11日、21時24分。
「お客様のお部屋は406号室です」
「休憩4時間 7260円」
私は画面を見つめたまま動けなくなった。
その日、夫は「会社でトラブルが起きた。深夜まで残業になる」と言っていた。私が夕食を用意して待っていると、23時過ぎに「今日は帰れない」と連絡してきた日だ。
翌朝、夫は疲れた顔で帰宅し、「会議室で仮眠した」と話していた。
私はすぐには問い詰めなかった。
写真を削除される前に保存し、撮影日時や位置情報も確認した。さらに夫の予定表、カード明細、帰宅時間を過去3か月分並べてみた。
すると、「残業」や「接待」と言っていた日に限って、同じ地域で決済された記録が何度も残っていた。
私は専門家へ相談した。
レシート1枚だけでは言い逃れされる可能性があると言われ、夫の行動を冷静に記録した。
2週間後、夫はまた「急な会食で遅くなる」と言った。
その夜、夫は職場の女性と待ち合わせ、車で同じ施設へ入っていった。2人が出てくるまでの写真と時間も記録された。
証拠がそろった週末、私は夫に尋ねた。
「3月11日は、会社に泊まったのよね?」
夫は平然とうなずいた。
「そうだよ。何度も説明しただろ」
私はテーブルに1枚の写真を置いた。
406号室、21時24分、休憩4時間。
夫の表情が固まった。
「これは同僚から送られてきただけだ」
そう言い訳する夫の前に、カード明細、位置情報、そして女性と施設から出てくる写真を順番に並べた。
夫はついにうつむき、半年以上続いていた関係を認めた。
相手の女性は、夫から「妻とは離婚協議中」と聞かされていたと主張した。
しかし、やり取りには私への誕生日プレゼントを相談する内容まで残っており、既婚者だと知らなかったという説明は通らなかった。
私は離婚を選び、夫と相手の双方へ慰謝料を請求した。財産分与も正式に進め、夫には家を出てもらった。
最後に夫は泣きながら、「写真さえ残していなければ」とつぶやいた。
私は静かに答えた。
「違う。撮らなければよかったんじゃない。不倫をしなければよかったの」
記念に残したかったのか、証拠になるとは考えなかったのか。
本当におバカさんだと思う。
夫が大切に保存した1枚の写真は、楽しい思い出ではなく、自分の嘘と家庭の終わりを記録する決定的な証拠になった。