商店街の古い壁に、砂時計のような図形が描かれていた。
上の三角形には「40度、40度」。
下の三角形の左下には「50度」。
右下には、大きく「X」と書かれている。
その横には、こう添えられていた。
「小学生でも解けるのに、大人は逆に解けない。あなたは何秒で分かった?」
足を止めた大人たちは、すぐにスマホの計算機を開いた。
「40と40と50を足せば130度だから、残りは50度?」
「いや、交差しているから90度じゃない?」
「図が傾いているから、正確には測れないだろう」
会社員らしい男性は紙に補助線を引き、大学生は難しそうな公式を検索している。答えは30度、50度、100度と次々に分かれた。
そこへ、ランドセルを背負った女の子が母親と通りかかった。
女の子は図を見上げると、10秒ほどで言った。
「Xは150度だよ」
大人たちは一斉に振り返った。
「どうして? どこから150が出てくるの?」
女の子は壁の図を指でなぞった。
まず、上の三角形には40度が2つある。
三角形の内角の和は180度なので、交差点にある角度は、
180-40-40=100度。
2本の直線が交差したとき、向かい合う角は同じになる。
だから、下の三角形の頂点も100度。
下の三角形は、左下が50度なので、右下の内側の角度は、
180-100-50=30度。
ただし、問題で尋ねられているXは、三角形の内側ではない。
右下の辺を延長してできた外側の角だ。
一直線は180度だから、
180-30=150度。
「だから150度」
女の子が説明を終えると、周囲は一瞬静かになった。
先ほどまで難しい公式を探していた男性が、苦笑しながらスマホをしまった。
「30度までは出せたけど、Xが外角だと見落としていた」
大学生も図を見直し、「傾きに惑わされた」と笑った。
大人が解けなかった理由は、計算が難しかったからではない。
見た目の複雑さに引っ張られ、「きっと難しい問題だ」と思い込んだからだった。
一方、女の子は知っているルールを順番に使っただけ。
三角形の内角は180度。
対頂角は等しい。
一直線も180度。
必要なのは、その3つだけだった。
壁の端には小さく答えが隠されていた。
紙をめくると、そこには確かに「150度」と書かれていた。
女の子は母親と手をつなぎ、何事もなかったように歩いていった。
残された大人たちは、もう一度図を見上げた。
難しく考えるほど、簡単な答えが見えなくなる。
さて、あなたは何秒で「150度」と分かっただろうか。