夫が「急な出張になった」と言って外泊した翌朝、仕事用バッグから緑色の紙が落ちた。
拾い上げると、そこには「1000円割引券」と書かれていた。
発行日から60日間有効。当店のみ有効。
上部には「H*P」という文字があるだけで、店名も住所も載っていない。
最初は飲食店の券だと思った。
しかし、夫は普段、割引券を持ち帰るような人ではない。
しかも出張先のホテルは会社が手配し、費用も後日精算すると聞いていた。
私は券を元の場所へ戻す前に、表と裏を写真に撮った。
帰宅した夫に、それとなく尋ねてみた。
「昨日はどこのホテルに泊まったの?」
「駅前のビジネスホテル。名前は忘れた」
「領収書は?」
「会社に提出した」
夫は目を合わせず、すぐに風呂場へ逃げた。
違和感はさらに強くなった。
私は割引券の特徴を調べ、似た券を知っている人から情報を集めた。すると、「郊外にあるカップル向けホテルの券に似ている」という話が複数寄せられた。
しかし、券だけで不倫と決めつけることはできない。
私は感情のまま問い詰めず、家計のカード明細と夫の外泊日を照合した。
すると、外泊した夜の21時過ぎ、出張先とは反対方向にあるコンビニで決済されていた。
さらにETCの利用履歴には、その近くのインターチェンジを降りた記録も残っていた。
夫に見せると、「同僚を送っただけだ」と言い張った。
そこで私は専門家へ相談し、次の“出張”の日を確認してもらうことにした。
2週間後、夫はまた「取引先との会食で帰れない」と連絡してきた。
ところがその夜、夫は会社の女性と2人で車に乗り、以前の割引券が使える施設へ入っていった。出てきたのは翌朝だった。
日時の分かる写真、行動記録、ETC履歴、カード明細。
必要な証拠がそろってから、私は夫と女性を同席させた。
夫は最初、「相談に乗っていただけだ」と否定した。
私は何も言わず、机の上に緑色の割引券を置いた。その横に写真と明細を1枚ずつ並べた。
女性の顔から血の気が引いた。
夫もようやく黙り込んだ。
話し合いの結果、夫は半年以上続いていた関係を認めた。私は離婚を選び、夫と相手の双方に慰謝料を請求。財産分与についても正式な書面を作成し、すべて清算した。
夫は最後まで「家庭を壊すつもりはなかった」と言った。
けれど、家庭を壊したのは1枚の割引券ではない。
出張という言葉で私をだまし続けた、夫自身の選択だった。
あの日、バッグから落ちた1000円の券。
夫はわずか1000円を得るために持ち帰り、その代わりに、二度と取り戻せない家族の信用を失った。