「母さんと子供たちは、この家に残る。お前だけ出ていけ」
その言葉を聞いた瞬間、私は耳を疑った。
二十九年間、夫婦として歩んできた相手が、私の両親が残してくれた家の中で、平然と言い放ったのだ。
隣には夫の母が座っていた。満足そうな笑みを浮かべながら、私を見ていた。
娘は視線を落としたまま、小さな声で言った。
「……私たちは、ここに残るよ」
息子も黙ってうなずいた。
胸の奥が締め付けられるようだった。
夫の母は、そんな私の様子を見て笑った。
「自分の子供にまで選ばれなかったのね。もうこの家に必要ないのは、あなたよ」
私はすぐには言い返さなかった。
ただ、夫の目を見て、最後に一度だけ尋ねた。
「本当に……それでいいのね?」
夫は迷いなく答えた。
「ああ。出て行くのはお前だけだ」
その瞬間、私の中で何かが静かに終わった。
「分かりました」
私はそれだけを告げた。
私の名前は小林尚子。五十五歳。
この家は、八年前に亡くなった私の両親から受け継いだものだった。名義も最初から私一人のものだった。
けれど私は、この家を「私だけの家」だと思ったことは一度もなかった。
夫と、娘と、息子。
四人で暮らす大切な場所として守ってきた。
娘は二十六歳。息子は二十三歳。二人とも働いていたが、職場が近いこともあり、実家から通っていた。
そんな穏やかな生活が変わったのは、半年前だった。
夫の父が亡くなり、義母が一人暮らしになった。
「母さんの家は広すぎるから売ったんだ。次の住まいが決まるまで、ここで暮らさせてくれないか」
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=obEd75AcWT0&t=23s,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]