「――5秒だけください!」
夜明け前のマイアミ火葬場。消毒液の匂いが漂う白い廊下に、金属の棺がひとつ置かれていた。黒いドレスの参列者たちが固唾をのむ中、億万長者として知られる投資家、リチャード・ボーモントは棺を見下ろし、表情を失っていた。涙も怒りもない。ただ、唇だけがわずかに震えている――それが、父としての限界を示していた。
総括マネージャーのグレース・ハミルトンが淡々と告げる。
「ボーモントさん、準備が整いました。進めてもよろしいでしょうか」
リチャードは無言で頷いた。男性スタッフが棺を持ち上げ、火葬炉の前へとゆっくり進む。巨大な扉が開き、赤い光が奥で眠っている。
その瞬間だった。
戦争服のような作業着姿の小柄な日本人女性が、廊下の向こうから駆けてきた。手には雑巾。頬は青ざめ、息は切れている。それでも目だけは異様なほど澄んでいた。
「5秒だけです。たった5秒、止めてください」
場内が凍りつく。葬儀の進行を止めるなど、あってはならない――誰もがそう思った。
グレースの声が鋭く跳ねる。
「森さん、あなた今、何をしているんですか。進行中の葬儀ですよ!」
森彩――夜間清掃員としてこの施設に雇われている女は、棺から視線を外さない。
「遺体の色が一定ではありません。指先と顔色が、違って見えます」
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=XrNlqc53yhc,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]