昼休みの社員食堂には、いつもとは違う緊張感が漂っていた。
俺は作業服姿のまま、静かにトレーを持って席へ向かっていた。朝から取引先の工場設備を点検し、油まみれになりながら現場を走り回っていたからだ。
「このバルブ、締め付けトルクが少し足りない。このままだと数か月以内に振動で故障する」
そう伝えると、現場の職人たちは真剣に耳を傾けてくれた。
「神崎さんが来てくれて本当に助かります」
その言葉が、俺にとって何より嬉しかった。
しかし昼食時、思わぬ人物が現れた。
「なんだ、その格好は」
声の主は、かつて俺の上司だった黒沢部長だった。
「ここは本部社員や役員が利用する食堂だ。下請けの人間が勝手に使っていい場所じゃない」
周囲が静まり返る。
俺は落ち着いて説明した。
「受付の方に案内され、外部訪問者として利用しています」
だが、黒沢部長は聞く耳を持たなかった。
「外部?見れば分かるだろう。ただの作業員じゃないか。そんな泥だらけの服で本部の食堂に来るなんて非常識だ」
そして、さらに続けた。
「お前みたいな現場の人間は、所詮使われる側だ。分をわきまえろ」
その言葉を聞いた瞬間、十年前の記憶が蘇った。
俺はかつて黒沢部長の部下だった。
現場の声を大切にしようとした俺を、彼は「現場しか知らない無能」と切り捨てた。そして会社を追われた俺は、そこから必死に技術を磨き、新しい会社を立ち上げた。
今の俺は、取引先が今日午後に迎える重要な商談相手――トラブルテクノスの代表取締役、神崎誠だった。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=wy-E4IihsrY,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]