バイクで恐山へ到着したとき、駐車場には何台かの車が止まっていました。
私はヘルメットをバイクに置き、そのまま見て回ることにしました。この時点では、何も変わったことはありません。
戻ってきたときも、遠目には自分のバイクがいつもの場所にあるように見えました。
ところが近づくと、ヘルメットだけが真っ白です。
大きなビニール袋が、上からきれいにかぶせられていました。
「こんなの、かけた覚えないぞ」
風で飛んできた可能性も考えましたが、それにしては収まりが良すぎます。偶然引っかかったというより、誰かが両手で広げて丁寧にかぶせた形でした。
つまり私が恐山を見て回っている間、知らない誰かがバイクへ近づき、ヘルメットに触れたことになります。
場所が普通の観光地なら、もう少し気楽に確認できたかもしれません。しかし、ここは恐山です。
周囲に袋をかけた人物の姿はありません。
私は少し距離を取ったまま、しばらく袋を眺めました。
中に虫でも入れられていないか。何か変なものが付いていないか。そもそも、なぜ私のヘルメットだけなのか。
考えても答えは出ません。
意を決して袋を持ち上げると、内側から小さな紙が出てきました。
そこには手書きで、
「中が濡れないようにかぶせました。」
続けて、
「道中お気をつけて。」
なるほど。雨でヘルメットの内側が濡れないように、袋をかぶせたということです。
理由は理解できました。
しかし、その下に書かれていた署名で、再び思考が止まりました。
「和歌山県民」
個人名ではありません。名字もありません。ただの県民です。
「和歌山県民って誰だよ……」
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