「決済が承認されました」
短い電子音が、静かな大学事務室に響いた。
私はその音を聞いた瞬間、しばらく息をすることすら忘れていた。
目の前にあるのは、母が最後に私へ残した一枚の黒いカードだった。
傷ひとつないのに、角だけが不自然なほど丸くすり減っている。まるで母が何百回、何千回も握りしめ、大切に守ってきた証のようだった。
「学生さん……このカードは……」
職員の方が画面を確認しながら、驚いた表情を浮かべる。
「これは……VIPブラックカードです」
その言葉の意味を、私はすぐには理解できなかった。
私の母は、ずっと貧しい生活をしていた。
食堂の皿洗いをし、工場で夜勤をし、古びたアパートで私と二人で暮らしていた人だった。
それなのに、なぜこんなカードを持っていたのか。
なぜ一度も使わなかったのか。
答えを聞くことは、もうできない。
母は一年前、突然倒れた。
病院で告げられたのは、末期の胃がんだった。
「もっと早く病院に来ていれば……」
医師の言葉を聞いた時、私は悔しさで胸が張り裂けそうになった。
しかし母は、最後まで私の前では笑っていた。
痩せ細った手で私の手を握りながら、母は小さな声で言った。
「えみ……あなたは、お母さんよりもっと大きな人間になりなさい」
そして亡くなる直前、枕元から一枚のカードを取り出した。
「本当に大事な時だけ使いなさい」
それが母の最後の言葉だった。
東京大学法学部に合格した私は、喜びより先に現実に打ちのめされた。
学費が払えない。
アルバイト代を集めても、必要な金額には届かなかった。
納付期限は二日後。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=I5QNclxwzs8&t=60s,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]