義実家から「久しぶりに皆で食事をしよう」と連絡が来たのは、週末の夕方だった。夫は嬉しそうに「焼肉らしいぞ」と言い、私も気を遣いつつ手土産を用意した。結婚してからというもの、義母の言葉には棘が多かったが、私は“家庭を円滑にするため”という名目で、できる限り穏便に過ごしてきた。
だが、その日は違った。玄関を開けた瞬間、肉の焼ける香りと、油のはぜる音が耳に飛び込んできた。
食卓の上にはホットプレート、皿に山盛りのカルビ、野菜、タレ。明らかに「皆が揃って食べる準備」が整っている。
私は靴を揃えながら、自然に食卓を見た。椅子は四脚。取り皿も四枚。箸も四膳。コップも四つ。——私の分だけが、どこにもない。
一瞬、目を疑った。忘れたのだろうか。そう思い、何も言わずに台所へ回ろうとした。だが、義母はそれを待っていたかのように、にやりと笑って言った。
「うちは5人家族よw」
声には嘲りが混じり、笑い方は軽いのに、意図だけははっきりしていた。義父、義母、夫、義妹、そして夫の弟。そこに「嫁」が入る余地はない、と言いたいのだ。私の頭の中で、これまでの小さな違和感が一気に繋がった。
お茶は私だけ薄い。私の料理は黙って残す。帰り際にだけ“手伝いが足りない”と責める。全部が、今日のための前奏だったのかもしれない。
夫は気づかないふりをしていたのか、本当に鈍感なのか、笑って席に座った。「まあまあ、すぐ用意するだろ」と、場を流す言葉だけを口にした。その瞬間、私の中で何かが静かに崩れた。悲しみではない。諦めでもない。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください