夫は東大卒であることを、呼吸のように誇っていた。名刺を差し出す手つきから、会話の端々に混ぜる学歴の話まで、すべてが「自分は上だ」という前提で成り立っていた。結婚当初は、努力家なのだと好意的に解釈していた。だが、それは次第に、私を傷つける刃へと変わっていった。
私の学歴を、夫は公然と見下した。親戚の集まりでも、友人を交えた食事でも、わざと聞こえる声で言う。
「学歴って大事だよな。低学歴は、どうしても要領が悪いから」
そのたびに私は笑って受け流した。波風を立てるより、家庭を守ることを選んだつもりだった。しかし、耐えるほど夫の態度は増長した。私が作った夕食に「こんな味付け、頭の出来が出るよな」と言い、家計の相談をすれば「数字に弱いのは学歴のせいだ」と吐き捨てた。
決定的だったのは、ある平日の夜だった。夫は仕事で苛立っていたのか、帰宅するなり鞄を乱暴に置き、私の顔を見るなり言い放った。
「低学歴の役立たずは出てけ。すぐに離婚してもいいんだぞ」
声は冷たく、命令だった。私は手にしていた皿を静かに流しへ置いた。心臓は強く鳴っていたが、不思議と頭は冴えていた。
ここまで言われて、なお我慢する理由はない。私の中で何かが、音を立てずに切り替わった。
「分かりました」
私がそう返すと、夫は鼻で笑った。
「やっと理解したか。お前みたいなの、いくらでも代わりがいるんだよ」
私はゆっくりと椅子に座り、夫を正面から見た。逃げるように視線を逸らさない。今夜だけは、私が主導権を握ると決めた。
「今まで秘密にしてたけど、実は私は……」
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