「娘の通帳に590万円? それなら半分は俺の取り分だろ」
離婚の話し合いの最中、夫は通帳を見てそう言った。
その瞬間、私は体の奥が冷たくなった。
娘が生まれた日から、毎月7万円ずつ積み立ててきたお金だった。
学費や進学費用のために、少しずつ用意してきた。
外食を控え、服も必要最低限しか買わなかった。
娘の誕生日にも、私の両親から届いたお祝いを記録して入金した。
通帳には、何年分もの日付と振込履歴が並んでいる。
それなのに夫は、残高だけを見て言った。
「結婚してからためた金だろ? だったら財産分与の対象だ」
「これは娘のためのお金だよ」
「名義が誰でも関係ない。半分は俺の権利だから」
私は言い返せなかった。
正直、法律上どう扱われるのか分からなかったからだ。
娘名義の通帳なら守られるのか。
毎月の積み立ては、夫婦の財産と判断されるのか。
別居する前と後では、扱いが違うのか。
その夜、通帳を開きながら、私は初めて泣いた。
ページには「送金 70000円」という文字が何度も並んでいた。
数字の1つひとつに、娘の未来を願った時間が詰まっている。
翌日、私は離婚問題を扱う弁護士へ相談した。
「娘名義なら、全部守れますか?」
弁護士は首を横に振った。
「名義だけで自動的に決まるわけではありません」
胸が苦しくなった。
けれど、説明には続きがあった。
「誰が出したお金なのか、いつ積み立てたのか、どんな目的で管理していたのか。資料を確認しながら、子どもの財産と夫婦の財産を整理していきましょう」
私は通帳、給与明細、両親からのお祝いの記録、別居開始日が分かる書類をそろえた。
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