真冬の深夜、町立図書館の裏口で、藤原幸喜は足を止めた。
閉館作業を終えた彼が外へ出た瞬間、冷たい風が頬を刺した。吐く息は白く凍り、街灯の明かりだけが静かな夜を照らしている。
その時だった。
図書館の軒下に、小さな黒い影が見えた。
最初は捨てられた荷物だと思った。しかし、近づいてみると、それは人だった。
古びた毛布に包まれた女性と、その腕の中で震える幼い女の子。
「……こんな寒い夜に、どうしてここにいるんだ」
幸喜の胸に、忘れかけていた感情が湧き上がった。
彼は三十八歳。町立図書館で司書として働いている。
かつては妻と五歳の息子と共に、穏やかで幸せな毎日を過ごしていた。しかし三年前、突然その日常は奪われた。
雨の日の帰り道、居眠り運転のトラックが妻と息子の乗った車に衝突したのだ。
二人は帰らぬ人となった。
それ以来、幸喜の世界から色は消えた。
仕事には毎日向かう。しかし、それはただ時間を消費するだけの日々だった。
図書館で親子が楽しそうに絵本を選ぶ姿を見るたび、息子の笑顔が蘇る。そのたびに胸が締め付けられ、自分だけが生き残ったことへの罪悪感に苦しんでいた。
だから、誰かを助けようなどとは考えたこともなかった。
自分自身が救われたい人間だったからだ。
しかし、その夜だけは違った。
震える小さな女の子を見た瞬間、幸喜の足は自然と前へ進んでいた。
「すみません……大丈夫ですか?」
女性は驚いた表情で顔を上げた。
警戒している様子だったが、司書の制服を見ると少しだけ表情が和らいだ。
「はい……でも、もう行く場所がなくて……」
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=N9MJPuRLilw,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]