三代続いた老舗蕎麦屋「蕎麦処ワビスケ」の最後の客は、一枚の百円玉を大切そうに握りしめた老婆だった。
「すみません……百円しか持っていないんです。それでも、少しだけ蕎麦を食べさせてもらえませんか」
その日、店主の藤原たけしは、明日から店を閉める決意をしていた。
祖父から受け継いだ大切な店。しかし、売り上げは年々減少し、家賃を払うことさえ難しくなっていた。
蕎麦職人としての経験しかない三十歳の自分を雇ってくれる会社も簡単には見つからない。
「これ以上、続けるのは無理だ……」
そう思いながら、最後の片付けをしていた時だった。
カラカラ……。
古びた引き戸が静かに開いた。
「いらっしゃいませ」
入ってきたのは、質素な服を着た小柄な老婆だった。
「蕎麦の量は少なくできますか?」
「はい、大丈夫です」
老婆はしばらく黙った後、申し訳なさそうに財布を開いた。
「実は……今、百円しかなくてね。百円分だけでいいから食べさせてもらえないだろうか」
たけしは一瞬、言葉を失った。
しかし、老婆の目には、自分と同じような孤独と諦めが浮かんでいた。
なぜか断ることができなかった。
「分かりました。少々お待ちください」
たけしは厨房へ向かった。
そして作ったのは、百円分の少量の蕎麦ではなかった。
祖父から受け継いだ、本来の一人前の蕎麦だった。
「お待たせしました」
老婆は驚いた。
「これは……普通の一人前じゃないかい?」
「お代は百円で結構です。お腹が空いた時に、うちの店を選んでくれたことが嬉しかったので」
老婆は震える手で箸を持ち、ゆっくりと蕎麦を口に運んだ。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=B22VB3PnUlI,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]