「お客様、うちは一見さんお断りなんですよ。それにお召し物……あまりに質素ではありませんか? お会計が90万円にもなるお料理、貧乏なあなたに払えますか? w」
歴史ある街並みに佇む、予約困難な高級料亭『錦華』。その格式高い暖簾をくぐろうとした私に向けられたのは、女将・加藤のあまりに冷酷で、侮蔑に満ちた言葉でした。
私はただ、父である鈴木グループ会長の命を受け、重要な取引先との会食の場所を下見に来ただけでした。
着古したワンピースに、母から譲り受けた古いバッグ。確かに高級料亭には不釣り合いな出立ちだったかもしれません。しかし、人を見かけで判断し、あからさまに追い払うその態度は、料亭としての品格を疑うものでした。
加藤は私の顔をまじまじと見つめ、鼻で笑いました。「うちのような店は、それなりの身分の方しか入れないんです。これ以上、お店の品格を下げないでいただけますか? さあ、お引き取りを」。
彼女の背後では、仲居たちがクスクスと笑っています。私を「金のない客」と決めつけ、一瞥もくれずに暖簾の奥へと消えていこうとする女将の背中。私は静かに、バッグからスマートフォンを取り出しました。
「承知いたしました。
では、これより当グループの全取引を見直させていただきます。本日をもって、貴店との契約は破棄ということでよろしいですね?」
その言葉に、加藤は足を止めました。しかし、彼女の表情には微塵の焦りもありません。「グループ? 何のことか知りませんけど、変な脅しは警察に通報しますよ。さあ、行って!」と私を門前払いしたのです。
私は静かにその場を離れ、角を曲がったところで父の秘書に一本の電話を入れました。
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