井上尚弥ほど、リング上で迷いを見せない男はいない。
相手のわずかな隙を見逃さず、距離を詰め、拳を打ち込み、勝負どころでは一気に仕留める。これまでの井上は、まさにそういうボクサーだった。
しかし、中谷潤人との一戦を振り返った井上の口から出た言葉は、いつもの冷静な分析だけではなかった。
「叩きのめそうっていう気持ちが、100%ではなかった」
その一言には、勝者の余裕でも、言い訳でもない、井上自身も初めて味わったような複雑な感情がにじんでいた。
試合後、自分の映像を見直した井上は、率直に「ポイント差は厳しい」と感じたという。リング上で戦っている感覚と、映像で見返した時の感覚。そのズレは、今後さらに突き詰めなければならない課題だった。
自分とセコンドの間で、試合中の採点感覚をどう共有するか。どのラウンドを取れているのか、どこでジャッジに優勢と見られているのか。井上ほどの選手であっても、そこにはまだ見直すべき部分があると感じていた。
だが、この試合で井上の胸に引っかかっていたのは、採点だけではなかった。
中谷の左目だった。
試合中、井上は中谷の左目に異変があることに気づいていた。視界が悪くなっているのか、ガードの位置や反応にも変化が見えた。普通なら、そこは一気に攻める場面である。弱った箇所を見逃さず、勝負を決めにいく。それがプロのリングであり、王者の本能でもある。
しかし、その時の井上は、いつものように無条件で踏み込むことができなかった。
もちろん甘さだけではない。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=a5QiFtgwEG0,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]