毎晩21時になると、嫁がスマートフォンで、寝入ったばかりの孫の写真を撮っている。それ自体は微笑ましい光景だった。ただ、撮った写真が、毎回どこかへ送信されているのが気になり始めた。夫にも、私にも、そうした写真が届いたことは一度もなかったからだ。
息子に聞いても、「知らない、そんなの気にしたことなかった」と首をかしげるだけだった。
半年ほど、その習慣は毎晩欠かさず続いていた。
ある夜、リビングのテーブルに置かれた嫁のスマートフォンの画面が、たまたま見える角度で光っていた。送信先のアイコンには、見覚えのない男性の写真が表示されていた。登録名は、ひらがなで「おとうさん」とだけ書かれていた。
嫁の実の父親とは、結婚した当初から折り合いが悪く、もう何年も音信不通になっていると聞かされていた。それなのに、毎晩孫の写真を送っている相手が「おとうさん」だとしたら――。
内心穏やかではいられず、私はその夜、思わず息子にそのことを話してしまった。息子も初耳だったらしく、二人で嫁に事情を聞くことにした。
嫁は一瞬驚いた顔をしたあと、隠す様子もなく、静かにスマートフォンを差し出してきた。
画面には、何年分もの孫の写真と、短い返信のやり取りが並んでいた。「ありがとう」「元気そうで安心した」。そんな、ごくわずかな言葉のやり取りが、何百通も続いていた。
嫁が話してくれたところによると、実の父親とは、嫁が結婚する前の激しい喧嘩がきっかけで、口をきかなくなっていたのだという。それでも、孫が生まれたことをきっかけに、嫁自身が思い切って連絡先を交換し、返事が来なくてもいいつもりで、毎晩写真だけを送り続けていたそうだ。
「顔を合わせるのはまだ無理でも、孫の顔だけは見せてあげたくて」
嫁はそう言って、少し涙ぐんだ。実の父親からの返信は、いつも一言二言だけだったが、それでも途切れることなく半年間続いていた。息子には、こじれた関係を蒸し返すようで話しづらかったのだという。
「そういうことなら、もっと早く言ってくれればよかったのに」
息子は少し複雑な表情を浮かべながらも、嫁の肩にそっと手を置いた。
私も、詮索してしまったことを心の中で少し反省した。
数日後、嫁の実父から、久しぶりに長い返信が届いたのだと、嫁は少し照れくさそうに教えてくれた。関係が完全に戻ったわけではないが、小さな扉が、確かに開き始めているようだった。