私は義兄の結婚式を、心から楽しみにしていた。式の準備が進むたび、義兄も義姉予定の方も、少し照れながら幸せそうに笑っていて、その姿を見るだけで胸が温かくなった。
ところが、式の直前。予定日より早く陣痛が来た。病院の白い天井を見上げながら、私はスマートフォンを握りしめ、震える指で夫に「ごめん、今…」とだけ打った。祝福したい気持ちは本物だったが、身体は言うことを聞かない。
命が、今まさに生まれようとしていた。
当然、私は式を欠席することになった。夫は病院に付き添い、義兄にはすぐに事情を伝え、丁寧に謝罪した。義兄から返ってきたのは「赤ちゃん最優先だ。無事を祈ってる」という短い言葉で、私はその優しさに涙が滲んだ。
しかし、その夜。義父から夫の携帯に電話が入った。スピーカー越しに響いた声は、驚くほど冷たかった。
「出産ごときで欠席? 結婚式を軽んじるな。離婚だ! 縁を切れ、笑」
夫が言葉を失うのが分かった。私も、産後の朦朧とした意識の中で、その一言が胸の奥を刺した。命を懸けて産んだ直後に、「出産ごとき」と言われた現実が、静かに怒りへ変わっていく。
私は夫に目で合図し、スマホを受け取った。
そして義父へ、淡々と返した。
「了解です。ご希望どおりにします」
“了解w”――そう送って、私は深く息を吐いた。感情ではなく、決意だった。私たちはもう、義父の理不尽に振り回されない。夫も静かに頷き、「今後の連絡はすべて書面で」とだけ告げて通話を切った。
式当日。私は病院のベッドで授乳をしながら、義兄の結婚式の様子を想像していた。
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