田所こうた、三十四歳。彼の人生は、決して華やかなものではなかった。
工業高校を卒業してから、未経験歓迎という求人を見つけ、害虫駆除会社に就職した。それから七年。ゴキブリ、ネズミ、シロアリなど、人が嫌がる仕事を黙々と続けてきた。
夏の天井裏は灼熱地獄だった。防護服の中は数分で汗だくになり、冬は冷たい地面に這いつくばって害獣の痕跡を処理する。
誰も進んでやりたがらない仕事だった。
しかし、こうたはこの仕事を嫌いではなかった。
汚れていた場所が、自分の手によってきれいになる。その結果が目に見えることが、彼には小さな誇りだった。
母親と二人で暮らしてきた。父親は中学生の頃に家を出て、それ以来、母が一人で彼を育てた。だが三年前、母は病気で亡くなった。
残された古い市営住宅で、一人静かに暮らす毎日。
恋愛経験はなかった。
女性と付き合ったこともない。高校時代も男子ばかりの環境で、就職してからも男社会の現場を転々とする日々だった。
気がつけば三十四歳。
誰かを好きになることも、誰かに必要とされることも、いつしか諦めていた。
そんな彼の人生を変えたのが、六十三歳の未亡人・幸子だった。
初めて幸子の家を訪れたのは、真夏の暑い日だった。
古いアパートの一階。害虫駆除の依頼を受け、チャイムを押すと、少し間を置いて扉が開いた。
「暑い中、ご苦労様です」
穏やかな声だった。
白髪混じりの髪をまとめ、落ち着いた服装をした小柄な女性。年齢を聞かなければ、六十代とは思えないほど明るく、優しい雰囲気を持っていた。
彼女は元国語教師だった。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=7lezb6ALFfk,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]