「そんなに実家へ帰りたいなら、籍を抜いてから行きなさい」
その朝、義母の久美子さんは、玄関に立つ私をまるで見下ろすようにして、冷たく言い放った。
私は黒い喪服に身を包み、両手で花束を抱えていた。白い菊と、淡い紫のトルコキキョウ。花屋で朝一番に受け取ってきたものだ。母が好きだった色だった。今日は、亡くなった母の初盆だった。実家では、すでに叔母たちが仏間の支度を進めているはずだった。
去年の秋、病を患っていた母は静かに息を引き取った。だが、葬儀でも四十九日でも、私は高橋家の都合を優先させられ、母の家族に何度も頭を下げるしかなかった。それでも今回だけは、朝から実家へ戻ると、一か月前から夫の深夜にも伝えてあった。
なのに、出発しようとしたその瞬間、久美子さんが当然のように立ちはだかったのである。
「聞こえなかったの? 今日は高橋家のお盆なのよ。親戚が来るのに、長男の嫁が実家へ帰るなんて、どこの家でそんな勝手が通るの?」
声は大きくない。だが、家中に届くよう計算された、逃げ場のない声だった。私を怒鳴りつけるためではない。私が非常識だと、家族全員に知らせるための声だった。
「お義母さん、今日は母の初盆です。高橋家のお盆の支度は、昨日のうちに済ませました。昼前には戻ります」
「戻ります、じゃないのよ」
久美子さんは私の持つ花に視線を落とした。
「亡くなった人より、生きている家を優先しなさい。あなたはもう、うちの娘じゃなくて高橋家の嫁なのよ」
その言葉に、喉の奥が熱くなった。母はもういない。だからこそ、今日だけは母の前に座りたかった。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=7-S7aoJru3o,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]