「二度とうちの敷居をまたぐな」
裁判所からの帰り道、そのまま荷物を取りに来た私を迎えたのは、玄関先で怒鳴る義父の声だった。
「二度とうちの敷居をまたぐな!」
古い木の門の前、夕方の住宅街にその声が突き刺さる。買い物袋を下げた近所の女性が足を止め、何事かとこちらを見た。私は裁判所で受け取った書類の入ったバッグを抱えたまま、藤崎家――いえ、正確には、そう“思い込まれていた”家の前に静かに立っていた。
玄関の段差に片足をかけ、こちらを見下ろしているのは、義父の藤崎義明、六十八歳。退職してからというもの、家の中では自分が絶対だと思い込んでいる男だった。細い腕を組み、いかにも被害者のような顔で私を睨む義母・千代子。そしてその後ろには、今日、離婚調停を終えたばかりの元夫・拓哉が立っていた。
五年間、夫だと思っていた男。
拓哉は私と目が合うと、気まずそうに視線を逸らした。だが、義父母を止めることはしない。
「裁判所帰りの女が、よくこの家に顔を出せたわね」
義母が吐き捨てるように言う。
「拓哉を苦しめて、私たちまで恥をかかせて、それでもまだ荷物を取りに来るなんて」
義父は鼻を鳴らした。
「嫁のくせに裁判なんぞ起こしよって。
昔なら家から叩き出されても文句は言えんぞ」
私は何も言わなかった。怒鳴り返したところで、この人たちは“自分たちが正しい”という結論を動かさない。それを、私は長い時間をかけて知っていた。
ただ、静かに門の外から玄関を見上げる。
結婚したばかりの頃、私はこの家に花を飾った。白い壁に似合うように淡い色の花瓶を選び、玄関マットも靴箱の上の小物も、全部自分で揃えた。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=c3e4Rh_0MQ4,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]