「派遣さんには退職金なんてないでしょ?」
最終出勤日、同じ部署の正社員から軽い調子でそう言われた。
私は笑って「そうですね」と答えたけれど、胸の奥には小さな悔しさが残った。
同じ会社で10年間働いた。
契約は3か月ごとの更新。景気が悪くなるたび、「次は更新されないかもしれない」と不安になった。
それでも遅刻も欠勤もせず、誰より早く出勤した。新人に仕事を教え、正社員が帰った後も資料を整理した。
ところが、退職する私に渡されたのは花束と菓子折りだけだった。
「長い間ありがとうございました」
上司の言葉に頭を下げながら、10年という歳月まで軽く扱われたような寂しさを感じた。
帰宅すると、夫が食卓の前に座っていた。
「10年間、お疲れさま」
そう言って、夫は白い封筒を私の前に差し出した。
「何、これ?」
中を確認した瞬間、私は固まった。
封筒には、帯のついた1万円札が入っていた。
金額は100万円。
「どうしたの、このお金!」
驚いて声を上げる私に、夫は少し照れくさそうに笑った。
「派遣さんには退職金がないんだろ?だから俺が用意した」
「でも、こんな大金……」
「1年働くたびに10万円くらいはもらってもいいと思ってさ。10年間だから100万円」
夫はこの日のために、毎月少しずつ自分の小遣いを残していたという。
飲み会を断った日も、欲しがっていた釣り道具を諦めた日もあった。それでも私には何も言わず、10年間積み立ててくれていたのだ。
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