義母が寝たきりになってから、私は15年、同じ家で介護を続けてきました。
食事、着替え、排泄の介助。自分の時間はほとんどなくても、夫の母だから、家族だからと信じてやってきたのです。夫も「助かっている」と言い、私はそれを支えにしていました。
ところが義母が遺言書を作ると言い出した日、その前提が全部崩れました。
義母は土地の価値や遺産の話をわざと私に聞かせたあと、平然と言ったのです。
「息子に7億、元カノに1億。あんたにはどんぐり1個で十分」
驚いて問い返すと、義母はさらに残酷でした。夫は結婚前から付き合っていた女性と、結婚後もずっと続いていたこと。私との結婚は、自分の介護を任せる相手が必要だったからだということ。元カノにはこんな世話はさせられないから、私が選ばれたのだと。
耳を疑いましたが、その夜、夫に確かめると否定しきれませんでした。しかも相手の女性には子どもまでいて、夫は別の家まで用意していたのです。
あの瞬間、私の中で何かが完全に切れました。
遺産の額が悔しかったのではありません。15年間の結婚も介護も、私だけが本気だったと知ったことが、何よりつらかったのです。
私はその場で離婚を決めました。
離婚届を置いて家を出たあと、探偵と弁護士に相談し、夫と相手女性には慰謝料を請求しました。義母もまた、私に真実を隠したまま利用し続けていた以上、もう「家族」ではいられませんでした。
その後、元カノは遺産が思ったほど残らないと知ると距離を置き、夫との関係も崩れました。夫は離婚に応じ、分割での支払いを認めました。
私は介護の資格を取り、今は高齢者施設で働いています。
感謝の言葉をきちんと返してくれる人たちのそばで、やっと自分の人生を生き直している気がします。
15年を返してほしいとは、もう思いません。
ただ、あの日どんぐり1個で踏みにじられた私は、あの家を出た時、ようやく自分を取り戻したのだと思っています。