高級イタリアンの個室に入った瞬間、私は胸の奥で小さく息をのんだ。
長いテーブルの上には白いリネン、磨き上げられたカトラリー、季節の花。どこから見ても上品で、ママ友同士のランチ会としては申し分ない空間だった。だが、その優雅さは、すでに嫌な予感に塗りつぶされていた。
私の席だけが、少し離れていたからだ。
「藤村さん、こちらへ」
甘い声で呼んだのは、このグループの中心にいる矢島裕和――周囲からは“ユアさん”と呼ばれている女だった。中学二年の息子を持ち、近所に越してきて半年。最初はどこにでもいる、少し派手なママだと思っていた。だが、違った。彼女は、常に誰かを見下し、支配することで自分の立場を確認する女だった。
私の前に案内された席には、まだ料理の皿が置かれていなかった。
他のママたちの前には次々とコース料理が並び、前菜のカルパッチョから始まって、香りのよいスープまで運ばれていく。けれど私の前に置かれたのは、たった一本のゴーヤだけだった。
白い皿の上に、ただ一本。
切り分けられもせず、味付けもない、生のままのゴーヤ。
「……これは?」
思わず私が問い返すと、ユアさんは口元に薄い笑みを浮かべた。
「藤村さん、ゴーヤ苦手なんでしょう? 特別メニューよ。貧乏人が高級イタリアンで食べられるものなんて、これくらいで十分じゃない?」
周囲の空気が一気に固まった。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=Suz101oH2Qg,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]