弟の結婚式の招待状が届いたとき、私は真っ先に日付を確認しました。忙しさを理由に断るつもりはありませんでした。弟は幼い頃から努力家で、医師になってからもなお、誰よりも真面目に働いている。そんな弟の晴れ舞台に、姉として欠席する選択はない。そう思っていました。
ところが、当日。会場の扉をくぐった瞬間から、胸の奥に小さな違和感が芽を出しました。
受付の係が名札を確認し、ほんの一拍、目を泳がせたのです。案内された席は、親族席でも友人席でもない、妙に端のほう。円卓の一角に、私の名札だけがぽつんと置かれていました。周囲の席には既に、弟の同僚らしい医師たちが集まり、笑い声を上げています。私だけが、そこから切り離されたようでした。
弟嫁――新婦の彼女は、白いドレスに身を包み、完璧な笑顔で私の前に現れました。けれど、その目には温度がありませんでした。
「お姉さん、ここです。……あ、言ってなかったっけ。底辺高校卒と食事したい人、いないと思ってw」
言葉は軽いのに、刃のように鋭い。周囲の笑い声が一瞬遠のき、私の耳には自分の心臓の音だけが響きました。
底辺高校。確かに私は、家庭の事情で進学を諦め、早くから働きに出た。弟の学費の一部を捻出するため、制服のまま夕方から夜までレジに立ったこともある。誇りはあっても、華々しい肩書きはない。それを、彼女は嘲笑の材料にしたのです。
私は席に座り、背筋を伸ばしました。弟の晴れの日を乱したくない。感情を顔に出さないよう、指先に力を込めてナプキンを整えました。
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