住宅街の一角にあるその家は、長年にわたって静かな暮らしを守ってきた。決して広大な敷地ではないが、手入れの行き届いた庭には季節ごとの草花が植えられ、住人にとっては何より大切な生活の一部だった。ところが、その穏やかな日常は、近隣住民の身勝手な行動によって少しずつ侵食されていくことになる。
発端は、家の横を抜ければ目的地まで早く着けるという、あまりにも安易な理由だった。
誰か一人が庭先を横切り始めたのをきっかけに、やがてその行為は周囲に広がっていったのである。本来なら他人の私有地であり、足を踏み入れること自体が非常識であるにもかかわらず、人々はまるで公道の延長のように庭を通り抜けるようになった。近道として使われるたびに、芝は踏み荒らされ、植木は傷み、雨の日には泥が散る。住人が大切に整えてきた空間は、日に日に無残な姿へ変わっていった。
もちろん、家主も何も言わずに耐えていたわけではない。最初は控えめに注意を促し、立て札を置き、私有地であることを示した。しかし、効果はほとんどなかった。「少しくらいなら」「すぐ通るだけだから」――そんな軽い意識が透けて見えるように、無断通行は一向に止まらなかったのである。
相手にとってはほんの数秒の近道でも、家主にとっては日々積み重なる明確な侵害だった。
そこで家主は、感情的に怒鳴り散らすのではなく、静かに、しかし確実に対策を講じることにした。庭の一部を大幅に作り替え、そこに池を設けたのである。もともと園芸が好きだった家主にとって、庭を改装すること自体は不自然なことではない。だがその池には、単なる景観以上の意味があった。
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