社長の息子が専務として会社に入ってきたとき、社内には何とも言えない空気が流れた。いわゆる“ゆとり世代”ど真ん中、しかも創業者一族の身内人事である。現場を知らない二代目が上に立てば、ろくなことにならない――そんな先入観を、多くの社員が少なからず抱いていた。実際、最初に顔を合わせたときの専務は、柔らかな物腰ではあったが、どこか淡々としていて、歴代の幹部たちのような押しの強さもなければ、泥臭い熱血さもない。
だからこそ、古参社員ほど内心では軽く見ていたのである。
だが、その専務が就任して最初に打ち出した方針は、社内を文字通り騒然とさせた。
「社員旅行は廃止します。社内イベントも廃止。飲み会も原則廃止です。朝礼もやめます。会議は週一回から月一回へ変更。業務と関係の薄いゴルフも禁止。さらに、社内恋愛についてもトラブル防止の観点から禁止とします」
発表の瞬間、会議室の空気は凍りついた。長年この会社で“当たり前”とされてきた慣習を、専務はほとんど一息に切り捨てたのである。古参の管理職たちは眉をひそめた。営業部の一部は「付き合いを軽視している」と不満を漏らし、総務は「社内の一体感がなくなる」と顔を曇らせた。
なかでも反発が強かったのは、接待ゴルフや飲み会を人脈づくりの中心にしてきた層だった。彼らにとって、それは単なる娯楽ではなく、自分たちの影響力を保つための重要な手段でもあったからである。
専務はそうした反発を受けても、声を荒らげることはなかった。ただ静かに、「仕事に直接関係のない負担を減らします。その代わり、成果と効率に責任を持ってください」とだけ言い切った。
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