静まり返った銀行のロビーに、彼女はそっと足を踏み入れた。桜という名の老婦人――その手には、時代を感じさせる一冊の古びた手帳が握られていた。
彼女がカウンターに近づき、その手帳をそっと置いた瞬間、空気が凍りついた。スタッフたちの会話はぴたりと止まり、誰もがその手帳に目を奪われた。無言のまま、ただただ彼女の一挙手一投足を見守るしかなかった。
「少し、引き出したいのです」
桜の低く落ち着いた声に、若い行員・春樹は思わず顔をしかめた。そして、吐き捨てるように言った。
「お客様、このような古い手帳ではお取引できません」
その言葉には、露骨な侮蔑が込められていた。だが、桜は怯まず、じっと春樹の目を見つめ返す。その目には、銀行という場所が忘れてしまった「何か」が確かに宿っていた。
「こんな手帳、今さら使う意味があるんですか?」春樹の言葉に、他の若い行員たちが小さく笑った。
顧客を年齢で、外見で判断する彼らの姿勢に、マリアという年配の女性行員だけが違和感を覚えていた。
桜は再び静かに言った。
「これはただの手帳ではありません。この銀行の歴史の始まりなのです」
その言葉に、周囲の空気が一瞬変わった。マリアは直感的に悟った。この女性は、ただの年老いた客ではない。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=g0u89I4JY58,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]