「最後に一言だけ。成仏してください。」
社長が笑いながらそう言った瞬間、テーブルの空気が凍りついた。私の手に押しつけられた花束は白い菊。包装紙にははっきりと「OSONAE」と書かれていた。仏壇に供える花だと、誰が見ても分かる。周りにいた社員たちも固まり、箸を持つ手が止まっていた。
私はこの会社で五年働いた。誰よりも顧客を回り、誰よりも売上を作り、トラブルが起きれば必ず私に回ってきた。数字も結果も出してきた自負がある。それでも社長と専務は常に上からだった。成果は自分たちの手柄、問題は部下の責任。「会社にいさせてやっている」という態度が当たり前。仕事が嫌いだったわけじゃない。お客さんも同僚も好きだった。ただ、この二人の人間性だけはどうしても好きになれなかった。
辞めると伝えたとき、引き止めの言葉はなかった。代わりに言われたのが「外には円満退社ってことにしてね」。最後まで体裁だけ。最終出勤日にはさらに一枚の書類を渡された。「一年間、同業他社へ転職しない」という誓約書。
私は紙を見た瞬間、首を横に振った。「これはサインしません。」社長は笑いながら言った。「書いてあるだけだから。実際行っても何もしないよ。」私は目を逸らさずに返した。「何もしないなら、なぜ書かせるんですか。」その瞬間、社長の口元の笑みが消えた。初めて、私が従わないと分かった顔だった。
そしてその昼が、この送別ランチだった。「円満退社だからやってあげる」と言われて集められた席。
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