大阪府内の商業施設にある飲食店で、70代の女性店員が客に怒鳴られていた。
彼女は小柄で、少し腰が曲がっている。それでも、いつも笑顔で接客し、私にも「今日は暑いですね」と優しく声をかけてくれる顔なじみだった。
その日、店内は昼時で混雑していた。注文した商品が出てくるまで少し時間がかかったらしく、客の女性がカウンターを叩いた。
「遅いのよ!」
店員が頭を下げると、女性はさらに声を荒らげた。
「年寄りはさっさと辞めなさいよ。使えないわね」
周囲の客は振り返ったが、誰も動けなかった。
店員は何度も謝りながら商品を渡そうとした。すると女性は受け取ったアイスのカップを、突然、店員に向かって投げつけた。
カップは腕に当たり、中身が制服と床に飛び散った。
私は反射的に立ち上がり、2人の間へ入った。
「やめてください。今のは接客への苦情ではなく、暴力です」
女性は私をにらみつけた。
「関係ないでしょう!」
私は言い返さず、店員を後ろへ下げた。投げられたカップには触れず、店長に警察を呼ぶよう頼んだ。証拠を残す必要があると思ったからだ。
数分後、警察官が到着した。
すると女性は態度を一変させ、私を指さした。
「この人にカップを投げられました!私は被害者です!」
一瞬、頭が真っ白になった。
しかし、すぐ後ろから男性客の声が上がった。
「違います。最初に投げたのは、その女性です」
続いて、子ども連れの母親も立ち上がった。
「私も見ていました。あの方は店員さんを守っただけです」
さらに店長が、店内の防犯カメラに一部始終が映っていると警察官へ伝えた。
映像には、女性が店員を罵倒し、カップを投げる様子がはっきり残っていた。私はカップを投げ返しておらず、店員との間に入っただけだった。
女性は映像を確認されると黙り込み、警察官に別室へ誘導された。店側は被害状況を記録し、店員本人の意思を確認したうえで警察へ正式に相談した。
騒ぎが収まった後、女性店員は汚れた制服のまま、私たちに頭を下げた。
「ご迷惑をかけて、ごめんなさいね」
私は首を振った。
「謝るのはあなたではありません」
後日、店を訪れると、彼女は変わらない笑顔で働いていた。店長によれば、安全のため迷惑行為への対応手順を見直し、従業員を1人で対応させないことになったという。
あのとき声を上げたのは、私1人ではなかった。
見ているだけだった人たちも、誰かが最初の一言を発したことで次々と証言した。
理不尽な怒鳴り声より、事実を語る静かな声のほうが強い。
見ている人は、ちゃんと見ているのだ。