「しまった……」
その瞬間、ハンドルを握る手が止まりそうになった。
いつもの通勤帰りの道。
見慣れた住宅街の中にある、信号のない交差点だった。
私はいつも通り、安全確認をしながらゆっくり走っていた。
交差点に差しかかった時。
横断歩道の近くに、人が立っているのが見えた。
でも私は、
「まだ渡る様子はなさそう」
そう判断して、そのまま通過してしまった。
次の瞬間。
後ろから聞こえたサイレン。
「前の車、止まってください」
頭の中が真っ白になった。
まさか自分が。
私はこれまで、運転にはかなり気をつけてきた。
スピード違反もしない。
スマホ運転もしない。
飲酒運転なんて絶対にしない。
だからこそ、ずっと守ってきたゴールド免許だった。
車を停め、警察官の説明を聞いた。
「信号のない交差点で、横断しようとしている歩行者がいる場合は停止義務があります」
その言葉を聞いて、私は反論できなかった。
確かに、歩行者はそこにいた。
私は「まだ渡らないだろう」と勝手に判断してしまった。
でも、道路ではその一瞬の判断が危険につながる。
警察官から渡された反則告知書。
そこには、
「2点減点」
「反則金9000円」
という文字が書かれていた。
紙を見つめながら、悔しい気持ちが込み上げた。
「今まで無事故無違反で頑張ってきたのに……」
ゴールド免許も失う可能性がある。
たった数秒。
たった一回の判断。
それだけで積み重ねてきたものが変わってしまう。
家に帰ってから、私はもう一度その場所を通ってみた。
すると、昼間とは違う景色が見えた。
住宅街の角。
建物の影。
車からは見えにくい場所。
もし小さな子どもが急に渡っていたら。
もし高齢者がゆっくり歩いていたら。
考えるほど、背筋が寒くなった。
私は反則金9000円を「ただの罰金」と考えるのをやめた。
これは、自分の運転を見直すための9000円だったのかもしれない。
それから私は、信号のない交差点では必ず速度を落とすようになった。
歩行者がいるか。
渡る意思があるか。
少しでも迷ったら止まる。
後ろの車にクラクションを鳴らされても気にしない。
大切なのは、数秒早く進むことではなく、安全に帰宅することだから。
今回の件で、私は改めて思った。
「自分は安全運転をしている」
そう思った瞬間こそ、油断が生まれる。
運転歴が長くても。
ゴールド免許でも。
毎日の慣れた道でも。
交通ルールは、常に確認し続けなければいけない。
あの日の反則切符は、財布から消えても、
安全運転を意識するきっかけとして、ずっと心に残るものになった。