夫の車を掃除していた時、助手席の下から白い小さな紙片が落ちた。
拾い上げた瞬間、私は息が止まった。
新生児の手首につける、病院のリストバンドだった。
そこには赤ちゃんの名前と、生年月日らしき数字が印字されている。
でも、私たち夫婦に子どもはいない。
「どうしてこんなものが、夫の車に……?」
嫌な予感しかしなかった。
その夜、帰宅した夫に聞こうとした。
でも、いつものように「疲れた」と言って風呂へ向かう後ろ姿を見たら、なぜか声が出なかった。
私はリストバンドを写真に撮り、元の場所へ戻した。
そして、ずっと避けていた夫のスマホを見た。
そこには、もっと残酷なものが残っていた。
メモ帳に並んだ日付。
「1月14日
wakoで知り合った子から『妊娠したかも』と連絡が来た」
「1月21日
検査薬は陽性。俺の子かもしれない」
「2月16日
病院について行った。彼女は産むと決めたらしい」
指が震えて、それ以上スクロールできなかった。
でも、見なければ終われない。
4月9日。
「この子と生きる人生もあるのかなって、一瞬考えた。妻と彼女、どっちを選ぶんだろう」
その一文を見た瞬間、涙が止まった。
悲しいより、冷めた。
私は何年も夫との子どもを望んでいた。
病院にも通った。
検査結果に落ち込むたび、「二人でも幸せだよ」と言って抱きしめてくれたのは夫だった。
その同じ口で、別の女性との子どもを選ぶ未来を考えていたのだ。
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