息子夫婦の家に向かう車内で、私は何度も手のひらを握り直していた。初孫に会える。写真では何度も見た。でも、実際に抱けるのは今日が初めてだ。小さな肌の匂い、温かさ、重み――想像するだけで胸が熱くなる。
夫も同じ気持ちだと思っていた。口数は少ないが、孫の話題になると目尻がわずかに下がる。だから私は、今日が“家族としての新しい始まり”になると信じて疑わなかった。
玄関で迎えてくれたのは、息子とお嫁さん。お嫁さんは少し疲れた顔をしていたが、丁寧に頭を下げてくれた。室内には、赤ちゃん特有の甘い匂いが漂い、リビングの隅には小さなベビーベッドが置かれている。私は上着も脱がないまま、視線がそこへ吸い寄せられた。
「抱っこ、してもいいですか」
私がそう言うと、お嫁さんは一瞬だけ迷ってから、そっと赤ちゃんを私の腕に渡した。
その瞬間だった。
夫が、突然立ち上がった。
「――今すぐ帰るぞ!」
声が大きく、鋭かった。部屋の空気が一気に凍った。息子が驚いて立ち上がり、お嫁さんは赤ちゃんが泣き出さないように身を固くする。私は抱いている孫の頭を守るように腕を締め、夫を見た。
「どうしたの……?」
夫は答えない。目だけが異様に冷たく、何かを“見てはいけないものを見た”ように固まっていた。息子が慌てて言う。
「父さん、急に何だよ。せっかく来たのに――」
夫は息子の言葉を遮り、低い声で言った。
「いいから帰る。今すぐだ」
私は孫をお嫁さんに返すしかなかった。赤ちゃんは小さくふにゃりと泣き、胸が締め付けられた。
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