八月半ばの蒸し暑い夜、居間でアイスを食べていた双子――桃と桜――が、突然そろって口にした。
「ふくおかけん、じょめじょめし、きょめきょめ……○丁目×番地!」
聞き慣れない地名を、舌足らずながらも何度も繰り返す。保育園で覚えるには奇妙すぎるその住所を検索すると、福岡県の山間に実在する小さな集落が表示された。
以来、娘たちは折に触れてその土地の盆踊り歌を口ずさみ、「こけこっこ祭り」「好憲(こうけん)おじいちゃん」という謎の固有名詞を語り始めた。
さらに背中には、二人を左右につなぐような赤い帯状の痣が浮かび上がる。医師は「皮膚の炎症」と片付けたが、双子は傷を撫でながら「前にお鍋をひっくり返した跡なの」と言う。三歳児が説明できるはずのない出来事――その奇妙な一貫性に、私は「前世の記憶」という言葉を思わず思い出した。
お盆休み。私は思い切って双子を連れ、件の集落へ向かった。新幹線で博多へ、ローカル線を乗り継ぎ、最後は一両編成のディーゼルカーで山を越える。
三歳児に酷かと思ったが、二人は終始ご機嫌で、窓の外の緑を見つめながら童謡とも民謡ともつかぬ節をハモっていた。
夕暮れ、駅からさらにバスで揺られ、ようやく住所の家に辿り着く。苔むした瓦屋根の平屋。庭先では柴犬が尻尾を振って迎えた。桃と桜は犬の名を「好憲!」と呼び、旧友に再会したように頬ずりする。その瞬間、玄関から買い物帰りの中年女性が現れ、呆気に取られた表情で言った。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=RshqVkXOSNE,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]