孫の七五三の日は、朝からよく晴れていた。神社の石段に落ちる光が眩しく、紅葉が風に揺れて、いかにも「お祝いの日」という空気だった。私は夫と二人で、長男夫婦の家へ向かった。孫の晴れ姿を見られるのが楽しみで、前夜から小さな熨斗袋と、孫の好きなお菓子も用意していた。
神社での参拝と写真撮影は、滞りなく終わった。孫は小さな手で千歳飴を握り、得意げに笑っている。
私は何度も「かわいいね」「立派だね」と声をかけ、胸が温かくなった。――ここまでは、確かに幸せだった。
問題は、その後だった。
長男の家に戻り、「ささやかな食事を用意したので」と言われて通されたリビングで、テーブルを見た瞬間、私は違和感を覚えた。料理はきれいに並んでいる。刺身、煮物、天ぷら、赤飯。けれど、箸と取り皿が四人分しかない。
長男、長男嫁、孫、そして…もう一人分は、きっと孫の兄弟か誰か。私と夫の分がない。
私は聞き間違いかと思い、控えめに尋ねた。
「お箸、足りないかしら。こちらで出しましょうか」
すると長男嫁は、にこりと笑って言った。
「家族分しか用意してませんw」
語尾の軽さが、妙に耳に残った。
まるで、意地悪が成功した子どものような笑い方だった。長男は黙ってスマホを見ている。孫は空気が読めず、私の顔と料理を交互に見ている。
私は一瞬、言葉を失った。怒りより先に、静かな虚しさが押し寄せた。ここは孫の七五三。争う場ではない。けれど、私は客でもなければ「家族でもない」と言われたようなものだった。
そのとき夫が、何の迷いもなく立ち上がった。
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