義母の口癖は決まっていた。
「嫁なんだから、同居して私たちに親孝行しなさい!二世帯住宅でいいんだから!」
電話でも、食卓でも、親戚の集まりでも同じ調子だ。夫は黙ったまま視線を泳がせ、止める気配すらない。私は笑顔を作って受け流してきたが、内心ではずっと計算していた。こちらだけが負担を背負う“同居”など、成立するはずがない。
ある日、義母は勝ち誇ったように資料を持ってきた。
二世帯住宅の間取り図だ。玄関共有、風呂共有、キッチンは別。だが、共有部分が多すぎる。つまり、私の自由が減る設計だった。
「これならあなたも楽よ。うちが孫を見てあげる。あなたは働いてもいいし」
私は資料を一枚ずつ眺め、丁寧に返した。
「わかりました。三世帯住宅ならいいですよ」
義母の目がぱっと輝いた。
「そうね。孫のためなら……三世帯も悪くないわね。あなたの親も呼べば安心だし」
夫もほっとした顔をした。義母はすでに“自分たち中心の同居”が決まったつもりで、楽しげに続けた。
「じゃあ、土地はこっちで用意してあげる。あなたたちはローンを組んで――」
私はそこで、言葉を切った。声は穏やかに、しかし一字一句を明確にする。
「残念ですが、同居するのは私の両親です」
空気が止まった。
義母の笑顔が固まり、夫は口を半開きにしたまま動かない。義母が最初に出したのは、理解ではなく反射だった。
「……は? どういう意味?」
私は落ち着いて説明した。
「三世帯住宅にするなら、生活を支える体制が公平であるべきです。これまで育児も家事も私が中心でした。だから、私にとって“親の支え”が必要です。
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