30年ぶりの再会は、偶然を装った必然のように、駅前のホテルラウンジで起きた。私は仕事の打ち合わせ帰りで、手帳を閉じ、静かにコーヒーを飲んでいた。そこへ、甲高い笑い声が近づいてきた。
「えっ……まさか、あなた?」
振り向くと、かつての親友――そして、私の夫を奪った女が立っていた。隣には元夫。二人とも年相応に皺は増えたが、あの頃と同じ“勝ち誇った空気”だけは、驚くほど変わっていなかった。
「久しぶり」
私はそれだけ言った。深い感情は、もう燃えるほど残っていない。ただ、過去の針が皮膚の下で小さく動いた。
親友は、待ってましたと言わんばかりに席へ座り、バッグをテーブルに置いた。元夫も当然のように向かいに座る。私は断ろうとも思ったが、言葉が面倒だった。どうせ長くは続かない。そう判断した。
案の定、親友は会話の主導権を握り、こちらの近況など一切聞かずに“成果発表”を始めた。
「うちの娘、年収3000万の女医なのw」
得意げな笑い。周囲の視線が一瞬こちらに集まる。元夫も頷き、グラスを揺らした。
「そりゃすごい。親の育て方が良かったんだよな。……それに比べてさ」
彼は私を見た。まるで値踏みする目。
「貧乏女の老後は惨めだなw」
言葉は軽く、笑いは重い。心臓の奥がわずかに痛んだ。だが私は、席を立たない。泣かない。怒鳴らない。30年という時間は、私から“騒ぐ理由”を奪い、“淡々と終わらせる技術”を残してくれていた。
私はスプーンを置き、静かに言った。
「娘さん、退職日までよろしくね」
親友の笑いが止まった。
「……は? 何が?」
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください