同窓会の会場は、駅前ホテルの宴会場だった。照明は柔らかく、懐かしい校歌が小さく流れ、名札を首から下げた大人たちが笑い合っている。私は受付で会費を払い、端の席に静かに座った。仕事帰りのスーツは少し皺が寄っていたが、今日は目立ちたくなかった。ただ、昔の仲間の顔を見て、穏やかに帰れればそれでよかった。
だが、彼が視界に入った瞬間、その願いは消えた。
元同級生のK――今は社長だという。周囲には取り巻きがいて、名刺を配りながら大声で笑っている。高校時代、彼は私を一番よく標的にした。靴を隠す。机を蹴る。失敗を大げさに囃し立てる。教師の前では優等生の顔をして、陰で人を折るタイプだった。
私は知らないふりをした。大人になった今、関わらないのが一番だ。
しかしKは、私を見つけた瞬間に目を細めた。まるで昔と同じ、獲物を見つけた目だった。
「お、久しぶり。まだ地味だな」
軽い口調。周囲が笑う。私は笑わず、会釈だけした。するとKは、わざと近づいてきて、私の名札を覗き込む。
「へぇ……今、何してんの? まさか、まだ派遣とか?」
私は答えなかった。
答えれば、彼は必ず踏み込む。沈黙は防波堤だ。
だが彼は止まらない。テーブルの上のビールを手に取り、私の顔の前で揺らした。
「同窓会ってさ、成功者が主役だろ? ほら、乾杯しようぜ。あ、飲めない? じゃあ――」
次の瞬間、冷たい液体が私の胸元にぶつかった。
ビールだった。泡が弾け、シャツに広がり、首筋を伝って背中へ落ちる。周囲が「えっ」と息を呑み、誰かが笑いかけて止まる。
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