披露宴の中盤、乾杯の余韻が落ち着いた頃だった。親族席は和やかに笑い、友人席は写真を撮り合い、司会者の声が会場を柔らかく包んでいた。私は新婦として、ひたすら失礼のないようにと気を張り続けていた。――その瞬間までは。
義母が立ち上がり、マイクも持たずに、私に向かって言った。
「おバカなのねw 中卒かしら? 私は東大卒だけどねw」
一瞬、会場の空気が固まった。笑い声は止まり、グラスの触れ合う音さえ遠のく。冗談にしては鋭すぎる。祝福の場で言う言葉ではない。私は戸惑い、反射的に「はい?」と返すしかなかった。
すると、隣にいた夫が、義母の方を見て目を丸くした。
「え?知らないの? 嫁子は――」
夫の声が会場の静けさに落ち、全員の視線がこちらへ集中した。義母は勝ち誇ったように顎を上げる。私は胸がざわついた。ここで夫が私を守る言葉を言ってくれるのか。そう願った。
だが、夫は淡々と続けた。
「嫁子は、学歴の話をしたがらないだけだよ。……東大どころじゃないから」
義母の笑みが一瞬で消えた。
「は?」
夫は、私の顔を見てから、会場に向けて静かに言った。
「嫁子は大学を出てない、って思ってた? 逆。嫁子は海外の大学と大学院を修了して、研究職の内定も蹴って、今の仕事に就いた。学歴を振り回すのが嫌いだから言わないだけ」
ざわ、と小さな波が広がった。友人席から驚きの声が上がり、親族席ではささやきが走る。私は思わず夫の袖を掴んだ。勝手に話されるのは困る。でも、義母の嘲笑を放置するよりは、まだましだった。
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