
月曜日の午前10時、都心の一等地にある巨大な銀行のロビーに、誰もが目を背けたくなるような人物が現れた。薄汚れたコートを羽織り、寄れたズボンに釣れた靴。その姿は、まさに社会の隅に追いやられたかのような、無力感を漂わせる老紳士だった。
銀行のロビーは静まり返り、客たちはその姿に一瞬息を呑んだ。どこか冷たい視線が集まり、空気が凍りついたように感じられた。しかし、その時、ただ一人、若い女性社員の藤崎みさがその老人に声をかけた。
「こちらにお座りください。少しお待ちいただけますか?」
その言葉は、周りの誰にも真似できない優しさを持っていた。みさは新人時代から、どんな相手にも丁寧に接することで評判の社員だったが、この日、彼女が見せた行動が銀行を大きく揺るがすことになるとは、誰も予想していなかった。
みさが老人に席を案内し、温かいお茶を持ってきたその瞬間、彼女の上司である室井部長が姿を現し、冷たい声で言った。
「みささん、こんな人間を座らせておくわけにはいきません。
お引き取りください。」
それでも、みさは決して引き下がらなかった。老人の手が震えているのを見て、心が動いたのだ。普段なら「規定」に従うべきところだが、彼女はその老人を見捨てることができなかった。少しだけ待っていただくようお願いし、温かいお茶を手渡した。
「ありがとう。」老人は小さく、しかし心のこもった言葉を返した。その優しさに、みさは心を打たれた。
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