六十四歳の楠木キヨコは、夫を亡くして十四年。息子夫婦は仕事の都合で海外へ渡り、今は一軒家で孫の深夜と二人で暮らしていた。
昼間は近所のクリニックで受付の仕事をし、夜になると深夜の帰りを待ちながら夕食を作る。それが、キヨコにとって当たり前の日々だった。
深夜は幼い頃から優しい子だった。人の気持ちを考えすぎるほど考えてしまい、何かあると自分より先に「ごめん」と謝る。
学校でもいつも控えめで、輪の端にいるような少年だった。
そんな姿を見ながら、キヨコはずっと心配していた。
「この子は、大人になってから自分の力で生きていけるのだろうか」
その不安は、深夜が二十四歳になった今、現実になりつつあった。
深夜は小さな商社で営業職として働いている。しかし、成績はなかなか伸びず、同期との差は広がるばかりだった。人と話すことが苦手で、断られることを恐れるあまり、相手に踏み込む前から諦めてしまう。
毎晩、玄関の扉が開く音が少しずつ重くなっていた。
ある夜、深夜は帰宅すると、食卓でぽつりと言った。
「おばあちゃん……俺、営業向いてないのかもしれない」
味噌汁の湯気を見つめながら、深夜の声は震えていた。
「今月も契約ゼロだった。同期は結果を出してるのに、俺だけ何もできない」
キヨコはすぐに励ます言葉を探した。しかし、ただの慰めでは深夜の苦しさは消えないと分かっていた。
「深夜、あなたには人の話を聞く力があるでしょう」
「でも営業は話が上手い人が勝つんだよ」
「違うわ。営業で大切なのは、相手を理解することよ」
深夜は黙って頷いた。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=FN7hfKiEnwg,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]