白い病室に、時計の針が響いていました。
墨野すみのは、翌朝、自分の腎臓を夫・修造へ提供する手術を控えていました。三十八年間連れ添った夫を救うため、自分の健康な体に大きな負担を背負わせる決断をしたのです。
「妻なら当然でしょう」
修造はそう言いました。
感謝の言葉より先に出たのは、当然のように差し出される要求でした。
すみのは長い結婚生活の中で、夫の病気を支え続けてきました。
塩分制限の食事を作り、毎日の体調管理を行い、少しでも数値が良くなるよう努力してきたのです。
「塩分は六グラム未満。野菜は必ず茹でこぼして」
冬の冷たい台所で、すみのは食材を一グラム単位で計っていました。
しかし修造は、外でラーメンを食べても平然としていました。
「俺には息抜きも必要なんだ」
注意すれば、「妻なら夫の命を守るのが仕事だろう」と責められる。
姑の千葉も同じでした。
「嫁なら顔色を見ただけで体調くらい分かりなさい」
「あなたは支える側なのよ」
すみのは何度も傷つきながら、それでも家族だからと耐えてきました。
そんなある日、医師から腎臓提供の適合結果が伝えられます。
「奥様からご主人への腎臓提供は医学的には可能です」
その瞬間、修造の表情は明るくなりました。
「これで透析を避けられるんですね」
しかし医師は続けました。
「まず確認する必要があるのは、奥様ご本人の意思です」
その言葉に、すみのは少し救われました。
自分の体なのに、今まで誰も自分の気持ちを聞いてくれなかったからです。
手術への覚悟を決めようとしていたすみのに、修造は頭を下げました。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=RZqBFrMDQKU,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]