義母のよしこが湯飲みを静かに置いた音が、朝の食卓に響いた。
「診察が終わったら、もう二度と泊まりに来ないでください」
その言葉を聞いた瞬間、時間が止まったように感じた。
父は膝の上に検査書類の入った封筒を抱え、母は小さな旅行バッグの持ち手を握っていた。二人とも、まるで自分たちが悪いことをしたかのように小さくなっている。
夫のケンジは新聞を広げたまま、視線を上げようともしなかった。
紙面はずっと同じページで止まっている。
読んでいるふりをしているだけだと、私はすぐに分かった。
私はすぐには言葉が出なかった。
怒りで声が震えたからではない。
この家の本当の持ち主を、まだ誰にもはっきり言っていなかったからだ。
父と母は、ただ病院へ行くために前日から泊まっただけだった。
父は心臓の検査。
母は目の診察。
遠方から朝早く病院へ向かうため、一晩だけ私の家に泊まった。
それだけだった。
なのに、よしこはまるで迷惑な客を追い払うように言った。
「ここはあなたたちの家じゃないんですから」
その一言が、私の胸の奥に突き刺さった。
父は何も言い返さなかった。
昔からそういう人だった。
言い訳するより、自分が一歩引けばいいと思っている人だった。
母も「大丈夫だから」と笑った。
「駅まで行けば何とかなるから」
そう言って立ち上がろうとした母の手首には、古い腕時計が光っていた。
それは私が初任給でプレゼントしたものだった。
母は大切な日にしか、その時計をつけない。
今日も娘に心配をかけまいとしていたのだ。
私はその姿を見て、ようやく気づいた。
今まで我慢していたのは、優しさではなかった。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=TQ-_1u4ED58,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]