「今、足掛けただろ」
自分の声が、あんなに響いたのは初めてだった。
朝7時台、埼玉の**上尾駅**。
全員が“時間に追われる顔”で同じ方向を向いていた。
7:42発 湘南新宿ライン、新宿方面。
あの時間のホームは、人が人じゃなくて“流れ”になる。
その流れの中で――
前を歩いていた女性の身体が、カクンと前に崩れた。
一瞬、何が起きたか分からなかった。
でも見えた。
すれ違った男の足が、横に出たのを。
女性は明らかに妊婦だった。コート越しでも分かる大きなお腹。
彼女は咄嗟に片足を前に出して耐えた。
転ばなかった。けど、“転ぶ未来”が一瞬見えた気がした。
誰も止まらない。
視線は一瞬だけ動いて、すぐ元の「自分の電車」へ戻る。
その空気が、俺は昔から嫌いだった。
姉が雪の日に転んで早産になったことがある。
「大した転び方じゃなかったのに」って医者が言ったのを、今でも覚えてる。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
引用元:,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]