年収八百万円。
それが、昨日までの俺の現実だった。
大手の業務委託、実質フリーのプロジェクトマネージャーとして、複数案件を束ねる立場にいた。成果を出せば報酬は上がり、評価は数字で返ってくる。だから余計な忖度も、派閥も、嫌いな愛想笑いも必要なかった――はずだった。
だが契約は、ある日突然切られた。
理由は「組織改編に伴う外部コストの見直し」。紙一枚で片付くほど、俺の仕事は軽かったのかと一瞬思ったが、違う。切ったのは“仕事”ではなく“俺”だった。社内で唯一、俺の提案に真正面から向き合ってくれていた美人部長・御堂(みどう)葵が、左遷された直後のことだったからだ。
貯金はある。だが、収入がゼロになった瞬間、部屋の空気は変わる。
照明をつける気にもなれず、真っ暗な部屋で、俺はカーテンの隙間から滲む街灯だけを眺めていた。スマホの通知も止まり、世界が俺を忘れたように静かだった。
――その静けさを破ったのは、夜十時過ぎのドアの音だった。
コンコン、ではない。
ドン、ドン、と必死に叩く音。まるで壊れそうな勢いで、迷いも遠慮もない。俺は一瞬、誰かに恨まれているのかと背筋がこわばった。
「……誰だ」
ドア越しに問うと、返ってきたのは震える声だった。
「お願い……開けて。あなたしかいないの」
聞き覚えのある声。息が詰まる。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=Xf1UzYbjCK0,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]