俺は社内で「窓際エンジニア」として通っている。
決まった時間に出社し、淡々とコードを書き、定時になれば静かに帰る。飲み会にも顔を出さず、会議では必要最低限の発言しかしない。誰も俺を脅威だと思わないし、期待もしない。――その方が都合がいい。
だが本当は、元やり手の会計士だ。監査法人で数字の匂いを嗅ぎ分け、粉飾の“違和感”を見抜き、何度も修羅場をくぐってきた。
ある案件で上層部の醜さを目の当たりにして辞め、今は「エンジニア」という肩書で息を潜めている。
あの頃の俺を知る人間は、もういない。
そんな俺の平穏を壊したのは、総務部の美人部長――水城(みずき)部長の一報だった。
「三千万円の横領疑惑が出た。……私が疑われているの」
昼過ぎ、彼女は会議室に俺を呼び、扉を閉めると低い声で言った。普段は凛とした姿勢の人が、ほんの僅かに手を震わせている。
社内の噂は早い。誰かが意図的に火をつけたのだろう。彼女は経費精算と外注契約の承認権限を持ち、そこに“金の流れ”が集中している。疑いの矢が向くのは簡単だ。
「証拠が、揃いすぎているの。私が承認したことになっている。ログも、印鑑の押印履歴も……」
俺はあえて、驚いたふりをした。
「それは……厳しいですね」
水城部長は唇を噛んだ。
「明日の朝一で臨時役員会。監査も入る。もしここで“黒”にされたら、私は終わる」
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=xODCXv17_XU,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]