配属初日の朝、私は名札の角を指で撫でながら、エリート部署と呼ばれる開発本部のフロアを見上げていた。天井は高く、ガラス張りの会議室が並び、誰もが忙しなくキーボードを叩く。――ここに来るまで、十年かかった。
俺の名は相沢 恒一。三十六歳、開発畑一筋。大学卒業後、地方の部品メーカーで設計を学び、夜は専門書を読み漁って腕を磨いた。
いつか「世の中を変えるモノ」を作りたい。その一心で、特許に絡む技術の研究を続け、ようやく一つの成果に辿り着いた。小型機器の消費電力を劇的に下げる新機構――社内では「N機構」と呼ばれ、私の設計図があって初めて成立する、会社の切り札だった。
だからこそ、上層部から直々に声がかかった。
「相沢、お前は来期から開発本部へ。外部企業からも引き合いがある。――実は“スカウト”だ」
その言葉に、私は胸が熱くなった。社内だけでなく、大手メーカーからも私個人へ打診が来ていると聞いた。会社は私を手放したくない。だから最重要プロジェクトへ引き上げたのだ。
しかし、その事実を知る者は限られていた。
そして運悪く、同じタイミングで新部長が着任してきた。
部長の名は黒田。大手から転籍してきたという触れ込みで、初日から「改革」「合理化」を連呼していた。だが彼の目は、現場を見る目ではなく、序列だけを見る目だった。
朝礼が終わり、私は所属メンバーの前で簡単に自己紹介をした。
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