横断歩道の信号が青に変わった、その瞬間だった。
前を歩いていた小学生の女の子が、糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちた。
「……おい、君!」
反射的に駆け寄り、肩を支える。だが返事はない。顔色は紙のように白く、瞳も焦点を結んでいなかった。交通量の多い朝の交差点で、倒れたままでは危険すぎる。
私は女の子を抱き上げ、歩道へ戻し、通りがかった女性に上着を借りて即席の寝床を作った。
――人が目の前で倒れたら、助ける。
子どもならなおさらだ。営業畑一筋で生きてきた私、木原裕次は、そういう人間でありたいと思っていた。
女の子の首から下がっていたお守りに、体質と連絡先が書かれているのを見つけた。
「母」の携帯番号。迷いはなかった。電話をかけると、森田明と名乗る女性が、切羽詰まった声で応じた。
『本当ですか? 娘が……! すぐ行きます。救急車は……』
「今のところ意識はありませんが、呼吸はあります。危険があればすぐ呼びます。落ち着いて来てください」
電話を切った私は、ふと時計を見て息を呑んだ。今日は、私が主導で進めてきた大切な商談の日。植村部長が“金にならない客”と切り捨ててきた取引先だが、今回は違う。かなりの金額が動く。だからこそ私は、誰より早く出社し、資料も整え、万全の準備で臨むはずだった。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=U4OuG342oTU,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]