新人歓迎会の会場は、駅前の少し高級な居酒屋だった。予約札の並ぶテーブルを見た瞬間、胸の奥が冷えた。――俺の席だけ、ない。名札も箸も、グラスすら置かれていない。空席がないわけではない。最初から「俺だけ外す」意図が透けて見えた。
俺は十八歳でこの会社に入った。高校を出てすぐ、家計の事情で進学は諦めたが、現場で泥をかぶりながら仕事を覚え、誰より早く数字を作ってきた自負がある。
だからこそ、こんな露骨な扱いは堪えた。周りの同僚たちは気まずそうに視線を泳がせ、誰も何も言わない。
乾杯の音頭を取ったのは、エリート部長の桐山だった。
「本日は優秀な大卒二人の入社を祝して――」
拍手が起こる。部長は新入社員の二人にだけ近寄り、肩を叩きながら満足げに笑った。俺の方は見もしない。
「現場叩き上げ? まあ悪くないが、会社は学歴が大事だからな」
桐山はわざと聞こえる声で言い、周囲が乾いた笑いを漏らした。俺は手にしたままの上着を握りしめ、席のないテーブルをもう一度見た。
――ここに俺の居場所はない。
なら、答えは一つだ。
俺は静かに一礼して言った。
「不採用だったみたいなので、帰りますね」
一瞬、空気が止まった。次の瞬間、桐山が鼻で笑う。
「は? なに拗ねてんだよ。席がないくらいで辞めるのか? 子どもだな」
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=m_mvFRiVedY,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]